スーパーでの買い物中に突然、コート後方の裾あたりをひっぱられた。
「ねぇーねぇーねぇえー」と、何かを懇願するような声で何度も服をひっぱる小さな手。見れば小学1~2年生位の男の子だった。
お母さんと間違えたのだろうとすぐ理解して「どうしたの?」と声をかけると、私の顔を見上げて初めて人違いだったことに気づいたらしく、一瞬間をおき驚いた顔をした。
それと同時に少し離れた所から、お兄ちゃんらしきもう一人の男の子が「何やってんの」と近づいてきて、二人は何やら話しながら足早に私から離れていった。
私はマスクの中でニヤニヤがとまらない。「いやぁー、あの子達のママに間違えられちゃったよ」と心の中で喜んでいる。お母さんよりおばあちゃんの歳だものね。
でもそれだけじゃない。その時、なんだかとても幸せな気持ちで満たされたから。他人の子でも、私を母親と信じ接してきた小さな手。理屈抜きで可愛く感じる。
しかしお母さんにとっては男児2人の子育てはきっと大変なことだろう。今だってお菓子か何かねだっていたのだろう。繰り返す「ねぇえー」の声のトーンから、買ってもらえない苛立ちと、それをくつがえすべく必死の試みみたいな意思を感じて、お母さんも大変だ…と思わずにいられない。
買い物を続けていると、またあの兄弟と出くわした。彼らは私をじろじろ見ながらまた話を蒸し返し、弟がお兄ちゃんに「だって同じ黒いの着てるから!」などと言い訳している。
今度は彼らの本当のお母さんが一緒にいた。その瞬間「え?」と思う。
顔は見えなかったけれど、私とは髪の長さが全く違う。着ている服もぜんぜん違う。コートの色も黒じゃないし・・・なぜ間違った!?
似ていたからじゃなくて、単にそこにいるのが母親と思って手を伸ばしただけだよね。視線はお菓子にクギづけのまま。
私のニヤニヤはマスクの中でちょっと恥ずかしい顔に変わった。